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五藤光学プラネタリウム冬番組 新潟・盛岡・群馬用シナリオ (第一稿)


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 むかしむかし、松林に囲まれた新保の大池には星が降ると言われていたそうです。

 星はすべてが生きていて、人が寝静まった頃には、この神秘な世界が寂しさや沈黙の中に目を覚まします。
そんな時は、泉の音が耳をつき、池には小さな炎が燃え、林の中のすべての精が星の精と話しはじめるのです。
すると、池の底の小さな光から、長い湿っぽい叫び声が大きく光っている星の方へ近づいて行きます。
そして、その叫びが一つの光を運んで、息でもするように大池の底へ飛び込んでしまう・・。こんな時、里人は「星が流れるのは里人の誰かが極楽にはいったしるしだ。
だから、仏様の後光に打たれたと同じように、手を合わせて拝むと幸せになるんだ。」と言っていました。

 この大池の真上に続いている星々が「極楽の道」という星の群で、あの星達は地獄から極楽まで続いていると言われています。
そこからずっと離れたところに見えるのが「魂の車座」、その前を歩いている三つの星は「三匹の馬星」で、三番目の星のそばにいるあの小さな星が「馬子星」です。
そのまわりに星が雨のように降っているのが見えますが、あれらはみんな、人々の魂で、仏様が自分のそばに置けないものは、みんなあそこにばらまいてしまわれるので、なかなか極楽にいけない星だといわれています。
 
それから少し下の方にある三つの星、あれは、「熊手星」といって時刻が分かる星で、その下に、いつも南の方に出ていて、たいまつのように光り燃えている星を「おおかみ星」と言っています。

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 「おおかみ星」にはこんな話が伝わっています。

 ある晩のこと、あの「おおかみ星」が、「熊手星や「うぐいすのかご星」らとともに、友達の星の祝言に呼ばれました。
気の早い「うぐいすのかご星は、高い上の方の道を通って、真っ先に出かけました。
「熊手星」は、もっと下の近道を歩いて「うぐいすのかご星」に追いついてしまいました。
ところが、なまけ者の「おおかみ星」はおそくまで眠っていたので、いちばんあとに残ってしまいました。
「おおかみ星」は怒って先に立っている星を止めようとして杖を投げました。
ですから、「おおかみ星」と「熊手星」の間の星を「おおかみの杖」とも言っています。
 

星の輝くときは、本当に空が深く見え、大池のそこもずんずん深くなって、いくつもの星々が降り注いでゆきます。
そのたびに、一人一人の魂が極楽に行くといわれています。

(中村忠一氏著「岩樟舟夜話」に収録された「星の降る池」の全文を現代風に加筆)



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「星の降る池」で語られた「極楽の道」は、
冬の澄みきった天の川に違いありません。
天の川の神秘的な輝きは、人の心をとらえ、その思いを空へと誘ってくれるのでしょうか。
死んだら、自分もまた、あの道をたどって極楽に行くんだと・・・
人々は、祈りを込めて冬のつかの間の星空を見上げたのでしょう。

かつて、そんな思いを、誰よりも強く抱いていた人物が、雪国新潟から遠く離れたところに、住んでいました。

天の川の向こうに聞こえる汽笛は、彼の幻影かも知れません。

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北国の空に思いを馳せながら、人々の幸せを願って生きた岩手の詩人・童話作家「宮沢賢治」。
彼の代表作銀河鉄道のイメージが頭をよぎります。


「銀河鉄道の夜」

宮沢賢治が、人間の生と死について書き記したこの物語は、童話というには、やや難解な作品でした。

死者が天の川に沿って天界に旅立つという信仰のようなものは、大池に伝わる「星降る池」における「極楽の道」と同じ考えと言えます。
 「銀河鉄道」は、夏の星座白鳥座が形作る北十字を基点に、銀河を南下して行く旅ですが、途中立ち寄る駅は、それぞれの天体に関する独特の解釈が展開されて行きます。
そこで乗車する人は、みんな、天界へ旅立つ人たちです。

 天界という特異なシチュエーションを得ながら、この物語が美しいメルヘンとは無縁の深い輝きで人の心に訴えかけてくるのは、それが、単なる絵空事ではない、現実の営みを記しているためでしょう。

 「銀河鉄道の夜」それは、天の川という天上の流れをたどりながら、独特の宗教観で人生の生と死をつづった賢治の心のスケッチなのでしょうか。
この名作は、何度も原稿を書き直し、未完のまま、賢治の臨終の枕元にあったといいます。



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人工の光に埋もれ、しだいに病んで行く現代の星空。




川端康成の見たあの冬の空、
芭蕉のあおいだ天の川

星が降るほどに輝いた大池の空

そして、宮沢賢治が旅した銀河の空。

それらは、いずれも美しく輝く星空だったに違いありません。


人間が、星空の大切さに気づき
美しい星空を望む声が、高まることを期待しながら、


私は、北への旅を続けました。











シナリオ・映像:沼澤茂美

ナレーション:内海賢二

音楽:     

協力:

川端康成記念会
雪国の宿高半
神林村
新潟日報事業社
野島出版 他未定


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