「新潟星紀行」沼澤茂美


第77回 1997.6/22

銀河鉄道の夜

天の川巡礼の旅なのか



 「ジョバンニは、病気の母を助けるために、学校のあとに活版所で働く毎日でした。帰宅すると、その日はいつもの牛乳が届いてないので、牧場までもらいに行きますが、牧場の後ろの丘の頂上で待つうちに、眠ってしまいます。空は一面の星空で、町の方はケンタウル祭でにぎわっている風でした。
 気がつくと、ジョバンニは列車の中におり、そこには、ずぶぬれの親友カンパネルラがいたのです。列車には次々と客がやってきて、そして、降りて行き、不思議なことばかり起きます。はくちょう座を通り、わし座、さそり座・・・最後は南十字まで、天の川に沿った旅は続きます。
 終点が近づく頃、カンパネルラはジョバンニをおいて、外の星空へ降りていってしましました。目が覚めたジョバンニは牛乳をもらって、母の待つ家に一目散にかけて帰りますが、途中、町は騒然とした状態にあったのです。カンパネルラが友達を助けるため川に入り、上がってこないといいます。ジョバンニは、夢の中に、別れを告げに来たカンパネルラの行った先を悟ったのでした。」
 宮沢賢治の残した最高傑作とうたわれる「銀河鉄道の夜」の大筋です。死者が天の川に沿って天界に旅立つという信仰のようなものは、いくつかの古い伝承に見つけることが出来ます。特に、以前に本稿で紹介した神林村大池に伝わる「星降る池」において、天の川は「極楽の道」といわれ、地獄から極楽まで続いていると記されています。
 「銀河鉄道」は、北十字(はくちょう座)を基点に、銀河を南下して行く旅ですが、途中立ち寄る駅は、それぞれの天体に関する独特の解釈が展開されて行きます。そこで乗車する人は、みんな、天界へ旅立つ人たちです。
 天界という特異なシチュエーションを得ながら、この物語が美しいメルヘンとは無縁の深い輝きで人の心に訴えかけてくるのは、それが、単なる絵空事ではない、実にリアルな物語である証拠でしょう。若くして死別した賢治の妹であり、最愛の理解者のトシへの鎮魂歌と見る人も多いようですが、人々の幸せを願いながら、ばく進していた賢治にはややふさわしくない感傷ではないでしょうか。
 「銀河鉄道の夜」それは、天の川という天上の流れをたどりながら、独特の宗教観で人生の生と死をつづった賢治独特の心象スケッチなのでしょうか。しかし、この名作は、何度も原稿を書き直し、未完のまま、賢治の臨終の枕元にあったといいます。


銀河鉄道の夜にでてくる「天気輪の柱」の解釈としては、様々な説がありますが、ここに大気現象として支持させる「太陽のハロ現象」と、私がその可能性の一端として紹介したい「光柱現象」の画像を紹介します。それぞれの解説は、珍しい現象のページをご覧ください。

  

北十字(はくちょう座)から南下し、終点南十字に至る銀河鉄道の旅(撮影地:南米チリ、1989年)銀河と交差するように左右に淡く貫いているのが真夜中の黄道光です。右の写真は明け方に天頂までのびた黄道光です。


宮沢賢治の宇宙


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