第15回4/14
水田に降る星
足の先までもが宇宙で満たされる一時
最近どこへ行っても都市や人工の明かりの影響は皆無ではありませんが、新潟県の山里の星空は、日本でも有数の美しさであると感じています。
最近、アメリカの軍事衛星が撮影した夜の地球の写真が公開されました。日本は夜中でもその形がはっきり分かるほどの光輝いています。その光の洪水の中にあっては、どうして美しい星空が望めようと、半ば絶望感を覚えることさえあります。ところが、写真を良く見ると、新潟の北部から山形にかけての山中に黒々とした光のない場所が認められるではありませんか。 私は、国内での観測や撮影をほとんどこの地で行ってきました。そこで今頃、ごく希に体験する美しい光景があります。
4月の終わりから、5月にかけてのほんの短い期間、しろかきが終わり、田植えを待つまでの水を張った水田が、神納(かんのう)平野に広がります。この頃、夜半をすぎると東の木原木(きはらぎ)山から早くも夏の天の川が白雲のように昇ってくる姿を見ることができます。すると、春の星座に変わって昇りはじめた夏の明るい星が山の下にも輝いているではありませんか。星々が水田に写り、逆さ富士ならぬ地上の星空を作り出すのです。
頭上も、そして足の下もすべてが星で満たされます。水田のあぜ道に立つと、まるで宇宙のただ中にいるかのようで、スーッと水田の中の星空に吸い込まれそうな気持ちにおそわれます。
水面が鏡のように止まった無風の夜、まだ冬の寒さを感じさせる早朝の静けさと共に、澄み切った星空は忘れられない情景を作り出してくれるのです。
しろかきの時期は、地域によってかなりの差があります。また、広大な蒲原平野の星、山間部の棚田に写る星など、様々な環境が個性的な星空を作り出してくれるでしょう。
しかし、この様な極めて貴重な体験をするとき、それを生み出してくれる環境の存続に危惧を抱くのは苦痛なことでもあります。こんな情景をいつまで見ることができるだろうという切実な思いです。
キャプション
「故郷にかかる銀河」(1992年)
神納平野一面に水が張られた、田植え前の早朝の空を再現しました。